子どもが1〜2歳になると「どんな幼稚園に通わせようか」「どんな教育方針で子育てしようか」などを考え始める家庭も多いですよね。
でもどの教育理念もそれぞれ素晴らしくて、どれが自分の子どもに合っているのか、なかなか分かりません。
私自身は男の子2人のママで、2人ともシュタイナー園に通いましたが、最初は何も知りませんでした。
多くの幼稚園や教育理念がある中でなぜシュタイナー園を選んだの?
シュタイナー園での生活はどんなものなの?
シュタイナー教育はどんな能力を伸ばせる教育法なの?
といった疑問に、シュタイナー教育が誕生した歴史背景や教育法に触れながら、お話しします。
シュタイナー教育とは?
シュタイナー教育とはドイツを中心に活躍したルドルフ・シュタイナー(1861-1925)が提唱した教育理念です。
ですがシュタイナー教育は最初から教育法として開発されたわけではありません。シュタイナーの目指したのは「人間とは何か?」という究極の問いへの答えです。
シュタイナーは建築、医学、農業など多くの分野で業績を残していますが、その礎になる考え方が人智学(アントロポゾフィー)。
人智学(アントロポゾフィー)とは人間は自然や宇宙との関係の中にある存在とし、芸術や自然を通して精神(魂)で世界とつながっているという考え方です。
この人智学(アントロポゾフィー)が難解で宗教がかっていることが、シュタイナー教育を怪しい思想ととらえられる理由ですが、ごく簡単に言うと「人間は目に見えるものや物質などだけで生きているのではなく、目に見えない世界も持っている」ということです。そのバランスを上手にとりながら人生を考えると、見えなかったものが具体的になり、視野が広がって自分の新たなる可能性を見出すことができる。
多くの視点から生まれる想像力で他人の心に敏感になったり、自分の未来に夢を持ったり、自分の生きている環境がこれからどうなっていくのかを考えることができる。
人智学(アントロポゾフィー)とはそういった世界観を構築する哲学で、それを追求し続ける礎を作るのがシュタイナー教育です。
人智学(アントロポゾフィー)を使用した商品で、イメージしやすいものはスキンケアブランドのヴェレダでしょうか。植物の美しさ、香りのほかに植物そのものの特性が持つ力を借りて、心、身体、精神のバランスを整える。それは人間と植物を同じ生物としてとらえ、お互いの生きる力を共鳴し合って得られる効果です。
シュタイナーの哲学が受け継がれているヴェレダを、実際に使用しているシュタイナー園は多くあります。
シュタイナー教育の歴史
第一次大戦終結の年に開校した最初のシュタイナー学校は、1919年ドイツのシュツットガルトに誕生します。
ヴァルドルフ・アストリア煙草工場を経営していたエミール・モルトが、シュタイナーの教育理念に共鳴し、工場の一角に労働者の子どものための学校を設立したため、当時としては極めて異例な労働者の子どもたちのための男女共学校でした。ルドルフ・シュタイナーは学校創設アドバイザーを引き受ける際に、すべての子どもに開かれた学校にすることを条件にしました。また、個々の教員の自由を尊重するため、校長を置かない共和的な運営スタイルをとったことも時代を画す動きでした。
この学校が開設された背景には当時、タバコ工場で働く従業員たちが、「子どもには、自分自身が受けられなかった教育を受けさせたい」という思いがあります。ドイツの普通教育は8歳までで、その後は、高等教育を受けるのか、職業教育を受けるのかを決める必要があります。シュタイナーに教育の機会を作ってほしいと相談した親たちは、職業教育を受けて早くから働き始めた人々でしたが、大人になるうちに「もっと学びたかった」という思いを抱いていました。
職業教育から高等教育に法律上は編入することはできますが、実際はかなり難しく、前例はほとんどないそうです。
だからこそ「自分で学びたいと思ったその時期に学べるような学校をつくってほしい」と切望したのです。
現在でもドイツでは8歳で将来を選択することは変わりありません。
ですから「学校を卒業する12歳までは平等に教育を受けられる」という理由でシュタイナー学校を選ぶ人は多いようです。
日本のシュタイナー教育
日本ではアジア圏でももっとも早くシュタイナー教育の種がまかれました。
1970~80年代の日本は中学生による校内暴力の全盛期でした。暴力行為の増加の要因については、児童生徒の成育、生活環境の変化、児童生徒が経験するストレスの増大、感情を抑えられず、考えや気持ちを言葉でうまく伝えたり人の話を聞いたりする能力が低下していることなどが挙げられていますが、荒廃が進む日本の教育への対案を求める人々の間にシュタイナー教育への関心が高まりました。勉強会や講座が全国で開催され、多くの若者が海外の教員養成で学ぶために海を渡りました。
そして1987年、日本初のシュタイナー学校である東京シュタイナーシューレが東京都新宿区の店舗住宅の一室で始まりました(現在は学校法人 シュタイナー学園)。
この東京シュタイナーシューレの第2期生に俳優の斎藤工さんがいます。
斎藤さんは「俳優として一番大切なことは、シュタイナー教育によって培われた」と話しています。
出典:シュタイナー学園
シュタイナー教育はオーダーメイド
シュタイナー教育でもっとも大切にされているのが子ども一人ひとりの個性や潜在能力の尊重と育成です。
シュタイナー教育では、一律的な単なる知識の詰め込みではなく、一人ひとりの心と身体の発達に応じたカリキュラムで、子どもの意志や創造性・想像力を豊かにすることに焦点を当てています。
シュタイナー園に入園した理由
私がシュタイナー園と出会ったのは長男が2歳の夏、来年から通う幼稚園選びのために近所の園をいくつか見学しているときでした。
そのころの長男は家族の前では活発な子どもでしたが、同年代の子どもが苦手でした。砂場で遊んでいてもほかの子どもが来ると遊びを止めて帰りたがる。そんなことがよくありました。
身体も小さく、おとなしかったので、彼にあった幼稚園は慎重に探さないといけないなと考えていました。
長男はどこの園の見学会でも子どもたちの遊びの輪に入れませんでした。
何も話さずじっとしている彼を園の先生たちは手を繋いで輪の中に入れてくれましたが、居心地が悪そうなのは明白でした。
シュタイナー園も近くにあったから見学に行ったのですが、やはり長男は遊びの輪には入れない。でも先生は何もしないで見守っているだけです。
不安になって「お友達と一緒に遊べないのです」と先生に言うと「あの子は耳がいいのね。お友達の声をじっくり聞いて、一緒に遊んでいる。遊びの中にいていわゆる『子どもらしく遊ぶ』だけが遊んでいるというわけではないのよ」と言われました。
驚いたとともに、気持ちがラクになったのをよく覚えています。自分の固定概念とか理想とかと長男が違っていたから焦っていた。でも彼が「自分らしく遊べる場所」がここなら、シュタイナーという耳馴染みのない園で一緒に成長を見守ってもらおうと入園を決めました。
シュタイナー教育で行われていること
シュタイナー教育では、いくつかの特徴的な教育方法があります。
成長周期の考え方や取り入れる活動、授業方法は独特で、特異に見えることもありますが、その根幹には「美しいこと」「芸術的であること」があります。
7年周期の発達理論
シュタイナー教育では「発達は7年周期で節目を迎える」と考えられています。発達段階を7年ごとの3つの段階に分けて、身体・心・頭をバランス良く成長させる教育方法を提案しています。
0~7歳 | 「善(安心や喜び、愛情)」を受け取る |
7~14歳 | 「美(芸術や人間性や自然への美)」を感じ取る |
14~21歳 | 「真(真実のある世界観)」を受け取る |
21~28歳 | 「関係性」(善や愛を実現したい) |
28~35歳 | 「構築」(美的生活をつくりたい) |
35~42歳 | 「問い」(真に大切なことは?) |
42~49歳 | 「葛藤」(正しさを超えた先にある善への気づき) |
49~56歳 | 「創造性」(芸術的創作への意欲、美へのあこがれ) |
56~63歳 | 「本質」(真に自分らしく生きよう) |
協調とリズムを体験する「オイリュトミー」
身体を使った表現を行います。協調性や責任感を育んだり、詩を唱えながら言葉の響きに沿って体を動かすなどの取り組みを行います。
芸術を中心とした授業
どんな教科であっても、詩を唱えたり歌を歌ったり、絵を描いたりといった芸術活動を通じて学びます。
人間の発達段階に関する理論に基づき、早期の知的教育は行いません。テレビや映画、ゲームなどは基本的に禁止。絵本や紙芝居は使わず、お話しのみで物語を伝えることも特徴のひとつ。感情を抑え淡々とした語り口調で話し、子どものイメージを膨らませます。
クラスや担任を変えない「一貫した教育体制」
シュタイナー教育では、8~12年間の一貫教育を導入しています。その間、クラスや担任を変えないことで、子どもの成長を注意深く見守ります。
幼稚園や小学校、中学校、高校と同じ環境で学ぶことで、安心できる環境の中、個性を伸ばすことを目的としています。
シュタイナー園での生活
シュタイナー園はリズムと繰り返しを大切にしています。毎日同じ時間に登園し、遊び、散歩、水彩や毎日のおやつ作りなどをして過ごします。
園では絵本や紙芝居などはなく、先生の素話を聞きます。
週に1回の給食は各家庭から持ち寄った野菜がたっぷり入ったお味噌汁と玄米ご飯、子どもたちが先生と一緒に作ります。
縦割りクラスなので年長が包丁を使い、年少はキャベツなどを手でちぎりながら、大きくなって包丁を使う日を心待ちにします。
お弁当箱はできれば自然素材のものをと入園時に言われるため、曲げわっぱや木製のものを持っている子どもが多いです。
「子どもに贅沢なのでは?」と思われるかもしれませんが、いちばん手先の触覚が敏感な時期に触れた「本物」は一生残り、指針となるから、この時期にこそ与えるべきという考えです。
オイリュトミーも週に1回。オイリュトミードレスというシンプルなワンピースを着けて身体を動かします 。
そういった1日、1週間の中に、七夕、夏祭り、秋祭り、クリスマスなどの四季や自然を祝う行事があります。
1日を通じて「手を動かす」という時間が多いです。
手には潜在的に備わった生きる力が集まっています。その力を確認し、自信になるような動作が遊びの中に随所にちりばめられています。
シュタイナー教育で伸びる力とは?
シュタイナー教育は「自由への教育」と言われています。
成長過程で「自由」になるための準備をするということです。自由とは他からの強制・拘束・支配などを受けないで、自らの意思や本性に従っていることを言います。 自由な行動により生じた結果は本人が引き受けるべきとされ、自由と責任は併せて語られることが多いです。
その責任を負う覚悟を持ちながら、将来的に「自分はこんなふうに生きていきたい」ということを実現するための力を育てる教育です。
自分で考え、判断し、行動できる人間になることを目標にしています。
シュタイナー教育のメリット・デメリット
シュタイナー教育はすぐに「できるようになった」という教育ではありません。
長い時間をかけて、それは植物が芽を出し、葉をつけ、茎を伸ばし、蕾からゆっくり開花するような時間がかかります。
それを踏まえてメリット・デメリットを紹介します。
シュタイナー教育のメリットとして
- 感性が豊かになる
- 自ら道を切り開き、生きる力が身につく
- 将来的に学力の高い子どもに育つ可能性がある
が挙げられます。
シュタイナー教育は自らの個性を伸ばすことができるように周りの環境を整えることを大切にしています。そのため、子ども一人ひとりが自己肯定感をもちながら、自立心を育むことができるかもしれません。音楽や美術など芸術に関する活動も積極的に取り入れることから、感受性や表現力、創造力豊かな人材に育つことが期待できます。
シュタイナー教育のデメリットとしては
- 一般的な学校とプログラムが異なる
- 保護者に時間的・精神的な余裕が必要
- 受験対策には向かない
が挙げられます。
公立校とは学習内容や進み方に違いがあることから、転校などをした場合に学習面で心配になることがあるようです。
私も長男の公立小学校の就学時健診のとき、ジャンケンができなくて、校長室に呼ばれたことがありました。シュタイナー園ではジャンケンで物事を決めることがないため、したことがなかったのですが、小学校の先生方からは発達に問題がある生徒のように思われたようでした。
また日本でのシュタイナーの歴史は30年ほどなので卒業生の進路データも少なく、就職などにどのような影響があるのかといった不安もまだまだ拭えないのが実情です。
シュタイナー教育が与えてくれるもの
シュタイナー教育は現在の日本にはそぐわない面もあるため、園から小学校に上がるときや就学期間の半ばでも離れる人は少なくありません。